医学部受験でみんな滑り止めはどうしているの? 

全国で82校ある医学部のなかで「滑り止め」と言える学校はあるのか。また、医学部以外を滑り止めにする場合の注意点をお話しします。

そもそも楽に入れる医学部はない

「医学部に滑り止めはあるのですか」とよく質問されます。第一志望が国公立大学の医学部で、私立医学部を併願受験するというのがパターンとして多いですが、残念ながら今はどこの私立医学部も競争率が高く、偏差値も上がっていて、簡単に入れるところはありません。

他学部と違って医学部は底が“高い”

御三家(慶応・慈恵・日医)は東大京大と肩を並べる難しさですし、比較的入りやすいと言われる大学でも偏差値65前後がボーダーラインです。
他学部なら国公立でも偏差値50~60くらいで入れる大学はたくさんあるのです。一部の私立にはボーダーフリーといって、偏差値の下限がない(偏差値を問わず入れる)大学もあります。学部にこだわらなければ、滑り止めになる大学・学部はあると言えるでしょう。
しかし、あくまで「医学部」にこだわるのであれば、最低でも偏差値60はないと勝負になりません。つまり、医学部受験においては「安全パイになる医学部」という考え方はないのです。

本命で行くか、ワンランク下か 勝負どころの見極め

共通テストが終わって1週間ほどすると、大手塾・予備校が各大学のボーダーライン(合格可能性50%の境界線)を発表します。これを目安にして最終的な出願をどこにするかを決定するわけですが、その見極めが難しいのです。

学校の進路指導では安全圏しか進めない

九大医学部を第一志望にしている子が、共通テストがボーダーより少し下にあったとして、九大に出願するか、ワンランク下の大学に変えるか――。
 「絶対浪人はできないから合格可能性の高い大学を」というケースもあれば、「浪人覚悟で勝負する」というケースもあります。しかし、答えが出せずに迷う子も少なくありません。 
こういうとき、学校の先生は「少しでも安全圏を狙いなさい」としか言いません。九大を受けさせて落ちたら責任が取れないからです。

医学部専門塾長としての経験と勘

私の場合はどうするかというと、本人の性格や実力、過去の受験生のデータなどを鑑みて判断します。「この子ならいける」と思えば、多少ボーダーより足りなくても背中を押すことが多いです。長年の経験があるからか、こういうときの私の勘はかなり鋭く、たいてい合格して帰ってきます。
医学部は狭き門なので、ワンランク下の大学に変えたからと言って安全パイとは限りません。だからこそ強気で勝負に出ることも、医学部受験では大事なときがあるのです。
たまに勘が外れることもありますが、本人や保護者から責められたことはありません。十分に面談して合意を得ていますし、何よりも、ここに至るまでの信頼関係の積み重ねがあるからです。(私自身は本人以上に不合格に落ち込んで、しばらく引き摺りますが……。それだけの覚悟で進路指導しているのです)

国公立医学部はボーダーラインが高めに出る傾向

実は、国公立医学部のボーダーラインは実際よりも高めに出る傾向が例年あります。九大医学部で言えば、東大京大の医学部を狙っていた子が、共通テストの自己採点で不安になり、ワンランク下げてくるケースが多いからです。
今年の受験で当塾生にも九大医学部のボーダーライン上にいた子がいましたが、私は「この点数ならいけるよ。私の勘では君は落ちない」と強気で断言しました。蓋を開けてみれば受験生の中で上位合格していました。
ボーダーラインはあくまで目安なので、勝負は最後まで分からないし、怖気づいてしまうと勝てる勝負も勝てません。

薬歯看の医系学部を滑り止めにする人が多い

出願の際に医学部合格の見込みが薄く、浪人もできない(したくない)という場合は、滑り止めとして薬学・歯学・看護学を選ぶ人が多いです。薬学・歯学・看護学は医学部ほど偏差値が高くなく、同じ医療系なので医学部と2次試験の科目が同じで、これまでの対策で受験できる点がメリットです。

入学後にモチベーションが上がらないことも

ただし、同じ医療系とはいっても医学部とは学ぶ内容やレベルが違いますし、資格取得によって従事できる仕事・職種も違います。「本当にやりたかった学問が学べない」「思い描いていた将来像が変わってしまった」というので、モチベーションが上がらない人もいます。

医学部失敗の“敗者のメンタル”になりがち

また、医学部を諦めて他学部に行ったという経験から、「自分は医学部受験に失敗した」「医学部から逃げた」という挫折や敗北感を抱きがちです。大学を卒業した後もそのメンタルを引きずってしまい、勉学や就職に前向きになれないケースがあります。再び失敗することが怖くて、逃げ癖がついてしまうことも……。

医学部への思いを残さないことが大事

もちろん他学部に進んで、そこで好きなことを見つけ、努力して花開く人もいます。結果的に医学部より他学部のほうが自分には合っていたと気づく例もあるでしょう。しかし、医学部への思いが強い場合は、中途半端に後悔を残さないようにすることが大事だと思います。

学校推薦や地域枠で合格を掴む手もある

医学部に比較的入りやすい方法として「学校推薦制度」や「地域枠制度」があります。選抜時期は大学にもよりますが、10月~12月に実施するところがほとんどです。

高校の推薦を受けて受験する学校推薦

国公立医学部、私立医学部ともに多くの大学が学校推薦枠を設けています。在籍している(浪人の場合は卒業した)高校の校長の推薦を受けて受験する制度で、評定4.3以上(学習成績概評A)を条件にしている大学が多いようです。

特定地域への従事が条件の地域枠

地域枠という制度もあって、地方の一部の大学で実施しています。地域における医師不足解消の施策として作られた制度なので、医学部卒業後もその地域内の医療機関に一定期間従事することが義務付けられるなど、いくつかの条件があります。

どちらの枠も人気が高く競争率が高い

いずれの枠も一般選抜よりも入試での学力は問われないので、そういう意味では挑戦しやすいですが、募集人数は多くありません。しかも一般選抜を待たずに早く合格を決めたい人が殺到するので競争率は高くなります。
進学したい大学にこれらの募集があるのなら挑戦することを勧めます。もし不合格でも一般入試で再チャレンジできるので、チャンスが増えます。

まとめ

医学部受験には基本的に「滑り止め」という考え方が当てはまりません。その覚悟で医学部を目指す必要があるでしょう。最初から「いざとなったら滑り止めがある」というマインドでいると、その甘さが不合格を引き寄せてしまいますから、背水の陣で臨んでほしいと思います。

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